ロバート・D・パットナム 『孤独なボウリング』

  • (1) ロバート・D・パットナム 『孤独なボウリング―米国コミュニティの崩壊と再生』(柴内康文訳。柏書房、2006年4月発行、689p ; 22cm) http://amzn.to/1PmrHMO
  • 原著はRobert David Putnam, Bowling Alone: The Collapse and Revival of American Community, 2000
  • アメリカの政治学者ロバート・D・パットナムが、スポーツ団体参加率低下などの膨大な統計資料を駆使して、米国で社会関係資本ソーシャルキャピタル)や共同体の衰退が進んでいることを訴えた作品。
  • 何よりも、大量の資料を提示する手腕が圧巻である。たとえば、“1960年代中盤に社会的信頼の長期低下が始まった”という主張について見てみよう。まず、著者は「大半の人は信頼できるか」という同一の質問をした複数の調査結果を調べた上で、各調査結果を一つのグラフにまとめ、質問に肯定的に回答する人が年々減少していることをシンプルに提示する (p.163f)。
  • 加えて、(1)1960年代以降増加した世論調査の拒否率、(2)1980年代末から10年で倍増した電話の着信判別利用、(3)90年代に50%増加した暴力的攻撃的な運転といった各種調査を引用して議論を補強。「全体として見たとき、これらの傾向が示唆するのは、…(信頼の)低下が、見知らぬ人と向かい合ったときの人々の実際の行動に影響を与えているということである」と結論している(p.168f)。
  • 著者は、このような論証手法を以下のように説明している。

慎重なジャーナリストは「複数ソース」ルール〔“two source” rule〕に従う。つまり最低2つの独立した情報源によって確認されなければ決して何も発表しないということである。この本においても、私は同じ原則に従う。本書における主要な一般化は、ほぼ全てが、複数の独立した証拠に依拠している」(p.25)

  • 「『複数ソース』ルール」に従って作り込まれたという本書。論証手法という点だけでも見習うべき姿勢があるといえるだろう。
  • もちろん、他者への不信が増加し、社会関係資本が縮小しているという本書の主張は、孤立化や排外主義の蔓延といった現代の社会問題に関しても、教えるところが多い。集団で行うリーグボウリングという遊びの衰退を示す書名「孤独なボウリング」が示唆するように、余暇やレジャーを考える上でも見過ごせない一冊である。訳も優れている。