ゲオルク・ジンメル『レンブラント』

  • ゲオルク・ジンメルジンメル著作集8 レンブラント』(浅井真男訳。白水社、1977年2月発行) http://amzn.to/2inNZSn
  • 原著はGeorg Simmel, Rembrandt: Ein kunstphilosophischer Versuch, 1916
  • オランダの画家レンブラントによる「夜警」「キリストの復活」などの作品を取り上げながら、その芸術がもつ意味を考察した。ドイツの哲学者G.ジンメル晩年の著作の一つ。原著の副題は「芸術哲学的試論」。運動、死、性格、美、完全性、気分、運命、宗教、芸術に関する所説も含まれている。
  • ほかに、同時期の著作として『社会学の根本問題』(1917年)や『生の直観』(1918年)がある。第一次世界大戦のさなかのことである。
  • 英訳の編訳者は本書について、1913年刊行の『ゲーテ』に始まるジンメルの思想の大きな変化の中に位置づけられると説明。この変化は「彼に強い影響を与えた生の哲学の運動と結びついている」としている(Scott and Staubmann, 2005)。
  • また、同編訳者は、ジンメルが親交のあった哲学者リッケルトに書いた手紙を紹介。その中でジンメルは、「『芸術の本質に反省を加えるという回り道をすることによって』、形式社会学や文化の一般理論につながる理論的洞察を得ることができた」と述べているという(ibid.)。
  • このことからもうかがえるように、本書には「生と形式」「個性」などの後期ジンメルが好んだ鍵概念が頻出する。彼の思索の到達点をかいま見ることができる一冊といえよう。
  • じっさい、ドイツ文学者の高橋義孝は「彼の生の哲学…彼の『生』の概念のいかなるものであるかを知ろうがためには、私は彼の…『生の哲学』などよりも却ってこのレンブラント論などに拠るのを便とすると考える」としている(「訳者あとがき」岩波書店版『レンブラント』、p.240)。
  • ジンメルによれば、レンブラントの絵画は“独自の形式をもった個性”である。

レンブラントの絵画は、他のいかなる内容もはいりえないような、それ独自の形式を持つ。その絵は全体として一つの個性なのである〔Das Bild als ganzes ist Individualitaet〕。…人々はレンブラントの『形式の欠如』を非難したが、これは人々がいとも簡単に形式と普遍的形式とを同一視したからであって、ちょうど道徳において法則を普遍的法則と同一視するのと同じ誤謬である。…レンブラントが描くことによって作り上げる形式は、ほかならぬこの個別者の生にしか対応しないのであり、この生を越えた普遍的な他の特殊化に耐えるような妥当性を許さぬ一種の連帯性のなかにあって、この個別者と生死をともにするのである(p.87)(訳文は適宜変更した)