‥‥たとえば、日本型のデメリットの一つは発想の多様性の減少である。日本型ではコンテキストの共有度が高いため、発想そのものも似通う。その上、意見を自発的に変える過程で過去の相違点を忘れていくため、個人の側にも異質な発想が記憶されにくい。
 それに対して、アメリカ型は低コンテキスト的だから、異質な発想をもった人間を受け入れやすい。人員の代替性が大きいので、決定参加者の入れ替えも容易である。また、全員一致型でないので、少数意見が浮上してくる可能性もより高い。
 純技術的には、決定プロセスのなかで遠隔会議システムやフィルタリングシステムをうまく使えば、当初の多様な発想を記憶することはできる。日本型のデメリットを補完する上で、それは一つの有力な解決策だろう。
 けれども、当初の発想を忘れることは、実は日本型のメリットにもつながっている。過去の意見が記録されていれば、どうしてもそれに縛られるし、誰がこう言ったからこう決まった/決まらなかったかが後からわかってしまう。そうなると簡単には妥協〔=決定プロセスにおける全員一致の「納得」――引用者〕できなくなるし、実行の際も自発的なインセンティヴを確保しにくい。正確な情報を保存して伝えることは、組織のコミュニケーションにおいてはデメリットになりうるのだ。そこにはトレードオフが存在する。(pp.159-60)