長倉久子「中世哲学とトマス・アクィナス
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‥‥それ〔エミール・ブレイエの主張〕に対してジルソンという非常に有名な哲学史家で中世哲学に関しては一番大きな仕事をした方が1931年にフランス哲学会で反論いたしました。つまり、哲学は数学や物理学などと違って、その営みは人格全体に関わるものであり、思索の原理や方法が純粋に理性の営みによるものであるならば、そこには哲学の営みがある、そして、その哲学体系がキリスト教の存在なしには説明できないとすれば、それは確かに「キリスト教哲学」である、と言いました。これを切っ掛けに、この年、フランスの哲学界では、著名な哲学者・思想家たちがこの問題をめぐって大いに論争をいたしました。そして、今では大体のところ、ジルソンの主張は認められていると思われます。こうして、1955年、ジルソンは堂々と『中世におけるキリスト教哲学の歴史』という大部の書を公刊いたしました。