そもそも「若者の政治離れ」という命題を多少なりともきちんと証明するには、「一般的に《若者》の範疇に含まれる年齢層の人びとが、それよりも年齢層の高い層と比べて、政治的関心のレベルが明らかに低いかあるいはその低下傾向が著しい」ということが十分合理的かつ説得的に示される必要がある。しかしここに四つの疑問がある。
 まず第一の疑問は「そもそも《若者》とはどのような年齢層の人たちを指すのか」ということだ。‥‥(p.4)

 第二の疑問は、そもそも政治的関心を何によって測るのかということだ。「若者が政治に関心が低い」と主張する議論の大部分は、政治的関心の指標として投票率を用いている。典型的なのは、「二十代の有権者は他の年齢層に比べて投票率が顕著に低い。だから政治的関心が低い」というような主張である。しかしよく考えてみると(実はよく考えるまでもなく)、この議論はあまりにも雑である。選挙での投票は国民の権利であるが義務ではないから、その権利を行使するか否かは、基本的には個々人の合理的選択によって決定される。その際に有権者が「政治に関心はあるが、投票するに値する候補者がいない」とか「どの候補に投票しても大勢に影響がないと判断すれば、投票によって得られる便益が投票行為にともなう時間等のコストに見合わないため、権利を行使しないことが合理的な選択になる。
 また逆に「年齢の高い有権者は政治的関心が高いから投票率も高い」という命題はとても成り立ちそうにない。加齢とともに「組織的な投票行動」の比率が「選択的な投票行動」に対して高まることが知られており、これが高齢者の投票率を押し上げるからだ。平たく言えば、人間は歳をとるにつれて何らかの帰属集団の「しがらみ」に結びつく傾向が高まるため、「投票に行かないという選択行動」が妨げられるのである。(pp.5-6)