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- 落合仁司『地中海の無限者:東西キリスト教の神-人間論』、勁草書房、1995年
- 微妙な本。カントールの集合論と神学を結びつけるアイディアの当否はよくわからないが、その他の部分では疑わしい断言が目立つ。参照されているのが邦語文献と英語文献だけ*1というのも、こうした印象を強めはすれ弱めはしない。それはちょっと、というか、おいおいほんとかよ、というか。
この二つの経路の内、従来第一の西地中海経路すなわちアラビア語からの翻訳が重視されてきた。十二世紀ルネサンスはアラビア経由のアリストテレスによる西欧の覚醒であったというわけである。しかし最近の研究によるとアリストテレスの翻訳が持った西欧思想への影響力という視点から見れば、第二の東地中海経路すなわちギリシア語からの翻訳の方が遙かに重要であったようである[36,46-53]。ちなみに残存する写本の部数でそれぞれの翻訳の影響力を測るとすれば、ボエティウスによって翻訳されなかったアリストテレス論理学の重要部分『分析論後書』については、十二世紀のヴェネツィアのジャコモによるギリシア語からの翻訳が二七五部残存しているのに大して、同じく十二世紀のクレモナのジェラルドによるアラビア語からの翻訳はわずか三部しか残存していない。『自然学』については、ヴェネツィアのジャコモによるギリシア語からの翻訳が一三九部、十三世紀のメルベケのウィリアムによるギリシア語からの翻訳が二三〇部残存しているのに大して、クレモナのジェラルドによるアラビア語からの翻訳はわずかに七部、十三世紀のマイケル・スコットによるアラビア語からの翻訳が何とか六五部残存しているという状態である。‥‥
残存するアリストテレスの(中世)ラテン語訳に占めるギリシア語原典からの直接翻訳の比重は圧倒的である。(pp.34-5)
*1:それは別に悪いことではないが。――念のため。