‥‥現代フランス語でも hôtel は、「人(他人)を迎え入れる場所」という広い意味にも用いられる。市役所は、役人が居座ることを旨とする場所ではなく(「役」所)、「町のオテル(hôtel de ville)」と呼ばれる。あるいは、これらの単語が相互に錯綜する。伝統的には、そして今でも、施療院が hôtel と呼ばれることも多い。特に「神のオテル(hôtel de Dieu)」と言ったら、病院、施療院、救護所のことである。今日中世の建物が残っているので有名なのは、ブルゴーニュ地方の町ボーヌ(Beaune)の「神のオテル」である。これにこういう名前がついていること自体、キリスト教社会の人々が、困っている人を助ける自分たちの行為を、神の与える恩恵だと思っていたことを示す。
 これがドイツ語にはいると、Hospital という語も存在するが、普通は、最初の音節が抜けて Spital(シュピタール)と呼ばれるようになる。こちらでも、近代になって病院が発達してくると、シュピタールから病院だけが切り離されて、「患者の場所、病院」(Krankenhaus)と呼ばれるようになり、それに対してシュピタールの方は、伝統的にすべての機能を備えた場所、ないし単に歴史的概念、ないし病院以外の諸機能の場所、などを意味するようになる。(pp.166-7)