なかには高額な料金を要求する産婆に頼ることができない貧しい娘たちも多く存在し、彼女らは「オテル・デイユ(l'Hôtel-Dieu)」と呼ばれた施療院(hôspital)のひとつで出産せざるをえなくなる。もちろん、オテル・デイユをはじめとした施療院管理も、救貧事業の一環としてポリスの重要な対象であった。治療報酬を請求することのない貧者のためのこの施療院についてメルシェは、しばしば引き合いに出される次の一節を書き残している。
 われわれの施療院(hôspitaux)は何と残酷な慈善を施すのだろう! 致命的な救済、人を欺く有害な餌。見捨てられ、その屋根の下で一人寂しく自然死していく貧者よりも100倍も哀しく恐ろしい死! 神の家(la maison de Dieu)だなんて! なんと厚かましい呼び方だろう! そこでは病気のうえにさらに人間性への侮辱が加わっているように思われる。もちろん医者や外科医への報酬はすでに支払われており、薬代もかからないことは知っている。恐怖の呻き声が怯えきった病人のまで貫き、その眼に死の光景を焼き付けるだろう‥‥神の家だなんて!(pp.84-5)