コロンブス以降、アメリカで先住民が「発見」されると、彼らの位置づけをめぐって煮え切らない議論が始まった。アメリカ先住民を「別のアダム」の子孫とみなしたり、あるいは、知られざるどこかの海峡をわたってアメリカに到着したセムの末裔とみなしたり、さまざまな推論がなされた。17世紀の「科学革命」をへて「啓蒙の世紀」にはいると、もう一つの「新大陸」であるオーストラリアの存在が確認され、聖書の祖先説はもはや完全に説得力を失った。そこで聖書にかわって、皮膚の色や毛髪、体格など、身体的特徴から世界の人間を「科学的に」把握し、分類しようとする知の枠組みがつくられていく。すなわちアンソロポロジー人間学・人類学)である。
 アンソロポロジーの発展の土台は博物学である。‥‥(pp.54-5)