いままでの調査で、自分のキャリアに関して評価の高い人、過去のキャリアを振り返って満足度の高い人、現在の仕事の充実度が高い人にとって、一〇年後の明確なゴールをもっているかどうかは問題ではないことがわかっています。柔軟で前向きに、自分なりのポリシーや考え方で、つねに新しいことにチャレンジし続けるというワークスタイルをとっている人が、結果としてキャリアの満足度あるいは仕事の充実感が高まっています。
 たとえば五年後や一〇年後の職業を想定し、その職業に就くために必要な資格と能力とは何か、一〇項目書き出してみます。そして、その資格と能力を身につけていく順番を計画表にして、一つひとつのスキルを、いま現在の仕事とはまったく別に身につけていく絵を描くことはできます。しかし、これはきわめて非現実的です。
 なぜなら、そうしている間に、もっとしたいことが見つかるかもしれない、その仕事に必要な能力が変わってくるかもしれない、その職業そのものが世の中でなくなってしまうかもしれないからです。キャリアは必ずしも逆算をしてつくろうとしても、計画通りにはいきません。‥‥
 以上のように考えると、「幸せのキャリア」は、天職との出会いがもたらすものではないことがわかります。(pp.55-6)