• 渡辺三枝子+E・L・ハー『キャリアカウンセリング入門:人と仕事の橋渡し』、ナカニシヤ出版、2001年
  • 「キャリアカウンセリング」ということばをめぐるさまざまな「混乱」を指摘している、という意味で――ほかのその手のものに比べて――良心的な本。その歴史や領域の紹介も勉強になる。ただ、「まえがき」で著者自身が述べているように、本書がその混乱をきちんと「整理」することに成功しているとは言いがたい。というかむしろ、入門書と混乱の整理という二つ課題設定によって、本書自体がまとまりを欠き、かえってわかりづらくなってしまっているような感さえある。残念。

昨今「心の癒し」とか「心のケア」ということばの流行に呼応して、「人の話を積極的によく聞く人、痛みを分かつ人、そばに寄り添ってくれる人」がカウンセラーの特徴だと思う傾向は、専門家、非専門家を問わず日本社会にかなり蔓延しているようである。それに対して、アメリカやイギリスでは、「変化を創り出す人」というイメージが強調されているが、その背景には、個人の生きる環境を、より生きやすい環境に変化させることなくして真に個人に貢献することはできないこと、そのためには個人が「生きる力」を身につけることと同時に「環境自体を変化させる」ことが不可欠であるという考えがある。そして、カウンセラー自身が環境と個人との相互作用を促進させる機能を果たそうとするのである。(pp.95-6)