いまの学生たちはキャリアに関し、正しい情報をほとんど持っていない。三〇歳で人生が決まると焦っている者もいれば、やりたいことが見つからないからフリーターになるしかないと絶望したり、資格さえあればなんとかなるとダブルスクールに走ったりするのも、キャリアというものをきちんと理解していないからにほかならない。
 社会に出たら全員が上昇志向で競わされ、これについていけない人は負け組みになるしかないという考え方を刷り込まされてしまった若者は、まさにファーストフードで味覚の麻痺した子どもと同じだ。だとしたらわれわれ大人の役割というのは、そんな彼らに働くことの本当の意味や、自分らしいやり方でオンリーワンキャリアを築いていく、そんなスローキャリアの生き方を身をもって教えていくことではないのだろうか。 
 スローキャリアというのは、なにも仕事をしている間にかぎったものではない。リタイアした後も当然続くし、続けなければ意味がない。(p.222)