現在、「自己責任」(「リスクを受け入れよ」)のスローガンとともに若者に向けられるメッセージは、明らかに矛盾したダブルバインドのメッセージである。それは一方で「自分の将来や老後を自分で備えよ」(「国や企業に頼るな」)である。しかし同時に発せられるのは「あらゆる長期計画(安定性)を放棄せよ」である。長期的な見通しが不可能となるなかで、自分で長期的な見通しを立てよ。労働市場が流動化し、非正規雇用層が増大するなかで、社会保障の自己責任化を貫徹せよ(たとえば401K)。ネオリベラル言説がこの不可能なメッセージで若者に期待するのは、不断に自己を励まし、不確実な未来を臨機応変に積極的に切り開く人間であろう。しかし若者たちはこの分裂したメッセージに対処するために、宿命論を招き入れざるをえない。もはや自己の将来を想像することは禁じられているからである。ネオリベラリズムが想定するユートピアとは裏腹に、自己責任言説がハイ・テンションな自己啓発に結びつくことはきわめてまれである。われわれの経験では、自己責任言説はロー・テンションな宿命論に親和的である。(p.135)

*1:全部読んでないけど。いまのところ確認できたのは一箇所のみ。195頁。