• ユルゲン・ハーバーマス『公共性の構造転換(第二版):市民社会の一カテゴリーについての探求』、細谷貞雄・山田正行訳、未来社、1994年(原著1962年、二版1990年の訳)
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  • 「今日の政治的公共性の二つのパブリシティの抗争状態」:

 社会福祉国家の政治的公共性は、二つの競合しあう傾向によって型どられている。それは〔一方では〕市民的公共性の解体形態として、従属化された公衆の頭越しに諸組織によって展開される示威的もしくは操作的な広報活動のはたらく余地を与えている。他面において社会福祉国家は、自由主義法治国家との連続性を保持するかぎり、政治的に機能する公共性の要請を堅持しており、したがって、諸組織に従属させられた公衆にも、これらの組織そのものをつうじて、公共的意思疎通の批判的過程の推進に参加させようとする。社会福祉国家の体制的現実においては、このような批判的広報活動の形態は、上に述べたような操作のために工作されただけの広報活動と競合している(123)。前者が貫徹されていく度合いが、福祉国家的体制をとる工業社会の民主化の度合いを―――すなわち社会的政治的権力の理性化の度合いを――示すわけである。自由主義法治国家は、政治的に機能する公共性は国家機関として樹立されることによって本当に実現されたという擬制にもとづいていた。福祉国家はこの擬制を拒絶する。じっさい議会というのものには、政治権力一般に対抗しながら、しかもそれ自身「権力」として創設された制度であるという矛盾が、そもそもの始めから付きまとっていた。これに対して、福祉国家の諸条件のもとで機能する公共性は、みずからが自己生産の過程であることを自覚しなくてはならない。すなわちそれは、巨大に拡張された公共圏内で自己自身につきつけられた公開性の原理をその批判的有効性において縮小させようとする第二の傾向と競合しながら、一歩一歩みずからを設定していかなくてはならないのである。‥‥(pp.301-2)