われわれの接することのできる悲劇作品は、これ以後発展して完成した前五世紀のものであるが、その形式は近代劇にはない、いくつかの特徴を示している。
 (1)コロス(合唱隊)の存在。
 (2)役者は仮面をつけている。
 (3)ディオニューソスを祀る祭礼の折に神に奉納された劇である。
 (4)悲劇作品三部作に続いてサテュロス劇一作がセットで上演された。
 (5)主として英雄伝説と神話が素材となっている。
このうち、(2)、(3)、(5)はヨーロッパに限らず古代社会ではどこにでも見られるが、コロスの存在、悲劇と卑猥滑稽なサテュロス劇との結合の二点は、ギリシア悲劇の特徴である。‥‥(橋本隆夫「序論」,pp.94-5)