• 吉川徹『学歴と格差・不平等:成熟する日本型学歴社会』、東京大学出版会、2006年
  • 読了。おもしろかった&勉強になった。データの扱いには若干理解しにくいところもあった(というか、詳細は理解できなかった)が、著者の語り口自体はきわめて「柔らか」で、すんなり読めた。9章に要約もあるので、主張の理解には困らない。同著者編著の『階層化する社会意識』も最近出たらしい。
  • とりわけおもしろかったのは、不平等・格差の拡大といえる現状があるにもかかわらず、社会意識には楽観的なムードも蔓延しているという指摘である。わたしも同じことを感じていたが、それを著者は「下降回避」という論理で説明する。たとえば、中間層上位への参入の可能性が減ったことは、必ずしも「努力しても仕方がない」という気分の蔓延をもたらさない。「というのも、世代間の閉鎖化・固定化は確かに上昇移動の可能性を減らすが、それと同じだけ、下降移動の可能性も減らしているのであり、社会全体はゼロサムだからである。ということは、努力してもしかたがないという悲観的・閉鎖的なムードと同量の、努力しなくてもナントカなるという楽観的な気持ちやアノミー的な気分を社会の各層にもたらすはずである」と著者はいう(強調原文)[p.180]。こうした発想は(わたしには)まったくなかったので、啓発されたという感じ。