• アウグスティヌス「恩恵と自由意志」
  • 読了。アウグスティヌスの恩恵論に対するカトリック教会内部からの批判、いわゆる「セミ・ペラギウス主義」に対して書かれた晩年の小品。続編として『譴責と恩恵(De correptione et gratia)』が書かれている。
  • 読者にたいする配慮のためか(1)聖書からの膨大な引用と(2)終始自由意志が肯定的に語られているのが印象的。本書を読んで、アウグスティヌスが自由意志を擁護しなければならなかったのは、聖書――「何らかの仕方で、明確に意志それ自体によびかけている掟は非常に多い」(2・4)とされる聖書――との整合性の問題もなくはないのかもなあ、と考えさせられた。当たり前のことかもしれないが、哲学的な関心から読んでいるとそうした視点がおろそかになりがちなので、いちおう書いておく。
  • 『再考録』では以下のように説明されている。

「恩恵が擁護される場合には自由意志が否定されると考える人たち、およびわたしたちの功績にもとづいて恩恵は与えられると主張して、神の恩恵を否定するほどまでに自由意志を擁護する人たちのために、わたしは『恩恵と自由意志』と題する書物を書いた。しかもわたしはハドルメートゥムの修道士たちのために書いたのである。というのは彼らの修道院のうちにおいてこの問題に関して論争が生じはじめ、彼らのある人たちはわたしに助力を求めざるをえなかったからである」(Ⅱ・66)(本書, p.94)。