パム・スミス[1992→2000]『感情労働としての看護』、ゆみる出版

  • 非公式な学習:

‥‥自分たちが患者に対して持っていると感じている“権威”について学生が言及したことから、この二つの労働者集団(看護婦と客室乗務員)の違いが、明らかになりました。イギリスの保健医療システムにおける厳しい上下関係は、ある種の患者たちを取り巻く感情ルールを決定しています。実習当初、学生たちは、自分たちが傷つきやすく、患者の側に立っていると考えています。けれども、患者たちに肯定的なレッテルを貼るか否定的なレッテルを貼るか、学生たちがどちらとみなすかは、往々にしてスタッフが彼らをどう見ているかによって決まるのです。病棟婦長は“自分の仕事をわかっているはず”であり、スタッフはすでにすべて見てきているのだから、後輩である自分たちは先輩の例にならうべきだ、というわけです。“年寄りのやっかいもの”というレッテルを貼られた患者の場合、学生たちは、ルールに従って内面の葛藤を軽減するために、この患者を避けて感情労働から撤退すべしと感じていたのでした。
 こうした戦略は、客室乗務員が公式に教わる戦略とは、まったく異なっています。客室乗務員も、気難しい乗客を見分け、レッテル貼りを行いますが、‥やりとりを続けていけるよう、深層での演技という技術を用いて怒りやイライラを管理する方法を、公式に教えられていました。(pp.67-8)