クリステラー[1961]『ルネサンスの思想』渡辺守道訳、東京大学出版会、1977年

 ヒューマニストたちは学校や大学の圏外にいたわけでなく、それらと密接な関係をもっていた‥‥ヒューマニストたちが普通担当していたのは、文法や修辞学の講座、すなわち中世の先駆者である書簡記述者たち dictatores が教えていた講座と同じであった。したがって、大学や学校の歴史とそこでの講座の歴史を調べれば、ヒューマニストたちと中世修辞学との関連がいちばんはっきりする。人文主義の影響によって、これらの講座は名称とともに内容や表向きの目標も変化した。14世紀の初期に、作詩はイタリアの大学で特別な教授課目として登場した。その後、文法教育は主として初頭教育者の役割と考えられ、それに比べて純ヒューマニストたちは詩と雄弁術の高等講座を占めた。なぜならば、雄弁術は演説はもちろん散文著述にも相当するものとみなされたからである。‥‥
 歴史は独立の課目として教えられたのではなく、修辞学や詩学の課目の一部をなした。それは古代の歴史家がふつう学園で学ばれた散文作家の間に入れられていたからである。道徳哲学はいつも独立した講座で扱われる課目で、普通、アリストテレスの『倫理学』と『政治学』を教材とした。‥‥(pp.147-8)