• J・カルボニエ『床屋医者パレ』、藤川正信訳、福武文庫、1991年(原著1965年、邦訳1969年の文庫版)
  • 小説なので目次はなし。

かれ〔パレ〕の『全集』の初版は一五七五年四月に出版されたが、そのとき、医学部長であり、自分の著書に失敗していまいましく思っていたグルメランが、あの床屋医者を失脚させてやろうと計画をめぐらせた。かれは一五三五年五月三日付の古い公文書を見つけ出した。それには、大学の許可がなくては、医学の分野においてはどんな論文も出版が許可されないとしるされてあった。‥‥パレは、知らなかったのか、故意によるのかわからないが、この公式の手続きを無視したのだ。‥‥
 「かれの著書は、これまで正式の許可を得ていない――これは重大な過失であり、背徳である――また今後許可されることはけっしてないであろう。人体に関する記述は不当であり、治療法ならびに医薬についての章は、ひょうせつにもとづいており、著者が自らの発見だと述べている成果は、虚偽にすぎない。そのうえ、かれの論文はフランス語で書かれており、したがって万人の読書が可能であるがために、虚偽が急速にひろまることは疑いのない事実である。以上の理由により、上述の著者による図書は焼却されるべきであると考える。」(pp.128-9)